2016東京国際映画祭 コンペティション部門 作品感想(東アジア編)

アジア映画好きの私にとっては外せない地域の作品です。

中国のメイ・フォン監督は長年ロウ・イエ監督(!)とタッグを組んできたベテラン、だけど監督デビュー作。 香港のロウ・シートウ監督はワールドプレミア!佃典彦さんの戯曲の映画化で、日本の物語がどうアレンジされるのか、とてもワクワクしました。

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ミスター・ノープログレ』 中国映画も問題なし

中国という歴史ある大国で成功するということは、大変なことなのでしょうね。体力や地頭の良さだけでなく、「調和」を重んじ、要領よく物事を進める力も必要なのだと思います。

現代では「個」を重要視する傾向がどんどん広がり、「じぶん」を大切にしようとする人が増えてきました。同時に、自分の正当性を主張したり、他人の意見に耳を貸さない人も多くなった気がします。私もひとりでいるのが結構平気な人なので、人のことは言えないのですが、本当に「おひとりさま」が増えたなぁと思います。

自分の世界を尊重できるようになるのは嬉しい反面、近くにいる人々が皆、できるだけ周囲の他人を無視しようとしているように思え、寂しく感じることがあります。人との距離をうまく取ろうとすることは、以外と難しいものです。こちらが仲良くなりたいと思って近づいても、相手はそう思っていない可能性もあります。そんな経験があると、近づくこと自体、色々考えてしまいます。

そんな時、人の間を取り持ってくれる調整役のような人がいると、すごく助かります。そう、ミスター・ノープロブレムの主人公は正にこのポジション!

八方美人で事なかれ主義…今の中国人を皮肉ってるみたい!という声もありますが、そもそもこれは昔の(戦時中)の小説で、昔からそういう人って、いたのだろうなと思います。そして、私はそれはそれで良いと思います。やっぱり調整役がいないとなかなか人はまとまらないから…。

同時に、ロウ・イエの脚本を手がけるメイ・フォンが、こういう路線で初監督作品を国際映画祭に出品したというところにもまた、要領の良さというか、先を読んだ計画性を感じます。やっぱりあれほどの経歴をお持ちの方だったら、一体何をやらかしてくれるんだろう?!と、思っちゃいますもん。こう来るのか…と、ちょっとだけ驚きましたが、逆に、これからの活躍ぶりがすごく楽しみです。これからの中国映画界を盛り上げる役割が期待されているような気がします(揺さぶるのではなく)。

この作品を観ていた時、実は私は監督のお隣で鑑賞させていただいておりました。(監督はもの凄く落ち着いた、穏やかな紳士でした)作品上映後のQ&Aにいきなり隣席の方が登壇したので、私はただただ驚愕し、うろたえるだけの、恥ずかしい日本人だったのでした…。

 


『ミスター・ノー・プロブレム』記者会見  “Mr. No Problem” PC 〈Competition〉

 

 『シェッド・スキン・パパ』 ほろ苦い笑いに涙が止まらない香港映画

近年、アジア映画界に旋風を巻き起こしている(?)「懐古モノ」のジャンルですが、私は世代的にどストライクなため、この手の映画はどうしても観てしまいます。(わかっちゃいるけどやめられず、だいたい泣いてます)私の経験から言うと、懐古モノには二種類あって、ひとつは本人の過去回想、もうひとつは、親の青春時代を子が振り返るバージョン、なんですね。

両方ともそれぞれ味があるのですが、親の人生を子が振り返る映画は、これまで「お母さん」の方でした。けれども『シェッド・スキン・パパ』は「お父さん」にフォーカスを当てています。というか、当てまくりです。(フランシス・ンが大変なことになっています!)

一般的なイメージですが、母親の方が子に近く、子どもと話をする機会は父親より多いと思います。父親との会話は以外と少ないのではないでしょうか。一緒にいると、つい知ったつもりになってしまいますが、父親のことって案外わかっていないものです。(男同士だともっと会話が少なさそう)

この映画では話が進むにつれ、父親の若い頃に遡ることになり、自分が生まれる前の両親の姿を見ることになります。よく知っているはずの人たちの知らなかった時代を目の当たりにし、「親」としてだけでなく、ひとりの人間、ひとりの男として、向き合えるようになっていくのです。

主人公は子(といっても、もう結婚もしている大人)ですが、この作品のメインは何と言っても「お父さん」です。メチャクチャな、本当に困ったお父さん…。でも思うんですよ。戦時中じゃなかったら彼の人生はこうじゃなかったのかもな、って。部屋に貼ってあった古い日本映画のポスターも、実はお父さんのものなのでは…?

映画監督である息子が日本映画ファン、という可能性もないとはいえないのですが、実はお父さんも映画好きなのかもしれません。そして、もし戦時中でなければ、お父さんも映画監督になりたかったのかも。自分のできなかった夢を息子に託したい、だから簡単に仕事を投げ出さないでほしかったような気がしてなりません。

親も大人も、「正しい人」ばかりではありません。ダメなところもある、でも良いところだってあるのです。その両方を大人になった今だからこそ理解することができ、自分の人生に反映させることができる…コメディを装った笑い溢れる演出の中で、号泣が止まらない、困った作品(良い意味で!)です。

 


『シェッド・スキン・パパ』 記者会見  “Shed Skin Papa” Press Conference

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