2016|監督:アスガー・ファルハディ
運命は決まっている
『彼女が消えた浜辺』のスピンオフとも言える作品とのこと。 『…浜辺』では結婚するかもしれなかったふたりが『セールスマン』で夫婦役というキャスティング(!)なだけに、かなりテンションが上がった。『…浜辺』では、男性が女性にメロメロなのだけど、女性は結婚に迷っている…そのシチュエーションも重ねて考えると、『サラリーマン』の深読みがさらに面白い。もちろん『サラリーマン』だけを観たとしても。既に戯曲『サラリーマンの死』が盛り込まれているのだから、二重になる心理を想像することができる。演劇は自分以外の人間に変身するところを面白がる俳優が多いが、この映画の中のふたりは演技中に「自分」をより濃く感じている。男女の心は理解し合うことなく、それぞれが自分の思いに正直。なのに何故かお互いの気持ちもわかっているのだ、たぶん。この夫婦はおそらく元には戻らないだろう…そう考えると、ファルハディ監督は最初からこのふたりのハッピーエンドを思い描いてはいなかったように思えてくる。『…浜辺』の若いふたりがもし結婚したとしても、結局破局するような気がするし…。監督が「うまくいかない運命」をわざわざ映画にしようとするところに、運命の非情さを知る思いである。