【MyFFF2022/長編・まとめ】第12回 マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル (以下、MyFFF) は、フランス語圏の映画を楽しめるオンライン映画祭。法的権利の都合により配信しないとされる作品もあるが、日本では今年、長編9本、短編17本の映画を楽しむことができる。(開催期間:1/14(金) 〜2/14(月))

私はただの素人映画ファンなので、普段は映画を評価・評論できる立場にないと思っているが、映画祭では観客賞を投票できるということもあり、MyFFFでは星取りで参加することに…。ここでは今年の長編作品を振り返りながら、評価理由についても触れていきたい。


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総評

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2020年、2021年はコロナの年だった。これまでも映画的には、個人の悩み・苦しみにフォーカスを当てた作品が多いと思っていたが、個の痛みは更にじわじわと社会全体へと蔓延していった感がある。本映画祭で配信されている作品のほとんどが2020年前後に製作されており、正に病んだ社会が浮き彫りにされたかのようだった。また、ヨーロッパ諸国の歴史的問題もだいぶんこじれてきているように感じる。自分の力ではどうしようもない状況の中で、どこに幸福を見つけるか、満足の着地点を模索する人々の姿が印象的な作品が多かった。


マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル

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コンペティション外

ナディア・バタフライ

東京五輪はコロナ禍のドタバタで混乱続きだった思い出しかないが、『ナディア・バタフライ』のように作品として残る映画があると思うと、感慨深い。ただ、開催国の実態とは異なっているのでは…という思いがあったり(ノーマスクの日本人が多すぎる)、通常では見る機会のない選手村のお部屋に興奮したりなど、本作がメインとする部分ではないところにいちいち反応してしまった。終盤は気持ちが盛り上がったが、もう少し早めにテーマを感じられたら良かったと思う。


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地平線の彼方

旦那を男に奪われて激怒する妻の映画を観て号泣したことがあるのだが*1、その逆バージョンもあるよねと思っていたら、まさかここで出会うとは!『地平線の彼方』の場合も、諦めるしかないとは思うけど、なかなか納得できないはず…。もうこの設定だけで既に深い!なのに、夫婦の物語ではなく、主人公は息子。ものすごく良い映画だけど、色々なことが盛り込まれ過ぎ!けど、観ることができて本当に良かったと思う傑作だった…


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コンペティション

ハニー・シガー 甘い香り

官能的な作品、『ハニー・シガー 甘い香り』はエロスだけでなく、ヒロインの背景にも注目すべき作品。フランスで生まれ育った彼女は、感覚の全てがフランス的だけど、ルーツはアルジェリア。同胞との集まりでは学校の友人の誰も体験しないような居心地の悪さに耐えている…。シチュエーションは興味深いが、股のゆるい彼女の気持ちがつかみにくかった。ひとり立ちできる年齢まで娘を育て上げ、自分の人生を新たにスタートさせようとする母にフォーカスを当てた方が、時代にマッチした作品になったのでは。


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テディ

『テディ』は個にスポットを当てているようで、実は社会への警告のように思える。事件は大抵色んなことが複雑に絡み合っているはずなのに、うるさくてめんどくさいヤツになすりつけて終わらせちゃいましょう、っていうのはあまりにもヒドい。けど、リアル。そしてハートブレイク。犠牲者であり、我慢もいっぱいしてた彼のような人が埋められるのは悲し過ぎる。テーマの目のつけどころが今っぽいと思った。太いバックのないよそ者の弱い立場をしっかりと描いた作品。


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プレイリスト

20代終盤のやり直しの効かなさってイタ過ぎる。『プレイリスト』の場合、学生時代はまだ自分の夢がハッキリしていなかったから進学しなかったけど徐々にやりたいことが見えてきて、20代後半でやっと学ぶ気になったのに年齢がネックになって先に進めない…。間違ったらやり直せばいい、と若い頃は思う。それが不可能とは言い切れないが、自分の人生ポートフォリオには「失敗印」が積み重なっていく。失恋とか、中絶とか。流れに乗ろうとして流されてしまう姿には共感する部分もあって嫌いではないが、フランス版『フランシス・ハ』という感じもする。(このテーマの作品は既に多い) ラストのアイデアは良かった。


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参考:
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パリ、夜の医者

『パリ、夜の医者』は、医師の人間性に迫った作品だ。コンペ作品の中で最も期待値が高かったし、予想以上に主人公の人柄がガッツリと感じられ、その点での満足度は高い。だが、様々な人物が登場する割には、イマイチ深い関係性を感じられる人がいない。何故こういう働き方をしているのかなど、異国の者にはわかりにくいお国事情があるのかもしれないが、愛人との出会いや従兄弟に尽くす理由など(他にも兄弟とか親とか親族はいるはず)、もう少し状況説明が欲しかった。揺れる気持ちは理解できるのだが、結局今の仕事は辞めるのかな的ラストは微妙な気持ちに。


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優雅なインドの国々 バロック meets ストリートダンス

『優雅なインドの国々 バロック meets ストリートダンス』は、オペラ『優雅なインドの国々』公演を巡るドキュメンタリー。オペラ『優雅なインドの国々』を観ていなくとも、出演者たちの悩みや希望、歓喜などは充分に伝わってくる。ダンスや演劇などの経験のある人は強く共感するはずだ。私も特に後半、涙ながらに見入った。だが、オペラ『優雅なインドの国々』を観ていないため、オペラの内容が全然わかっていないことに後から気づく。もちろん、直接オペラを観るべきで、映画でネタバレすべきではないと思うが、オペラの作品内容と主演者らの関係性がもうちょっと理解できたら最高だったと思う。


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アリスの空

かつては中東の金融、商業、情報、観光、学問の一大中心として「中東のパリ」と謳われたベイルート。内戦終了後もゴタゴタが繰り返され、その無念さが描かれている映画をいくつか観たことがあるが、ドキュメンタリーではなくファンタジーを絡めた『アリスの空』は、私にとって一番のお気に入りになりそうだ。多くの人の目に触れる必要のないシーンは、おとぎ話のように優しく 早回しでサラッと伝え、大事なシーンは豪華キャスティングでしっかりと描くというメリハリが良い。愛しているからこそ離れるという悲劇を、絶望的な暗さまで落とし込むことなく、明るく可愛らしい色彩で、最後まで観る者を惹きつける力が素晴らしかった。


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Madly in Life (イカした人生)

東洋は比較的家族を大切にする国が多く、親の面倒をみるという義務感が強いイメージもあるのだが、近年は西洋でも介護等を考えさせられる作品が増えていると思う。『ファーザー』も胸を撃ち抜かれた作品だったが、『Madly in Life (イカした人生) 』は、もう少し”自分の人生”にフォーカスを当てている作品のように思えた。日本では介護の必要があるから辞職したとか 離婚した…という実例もあるが、できるだけ自分の人生を犠牲しないという本作の考え方(方向性)が好き。映画を観ながら、自分自身の近未来についても考えさせられた。リアルでは上手くいかないことが、きっともっとあると思う。しかし、こういう映画を観る人は先の人生に希望を求めているはずだ。明るいラストに好感が持てる。

※この映画はベルギー招待作品なので、ホントにコンペに入れていいのかなと、やや疑問がある。コンペ外作品の2作品も他国の招待作品であることを考えると…
※作品は素晴らしかったのだが、邦題…もうちょっと考え直してほしい…


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参考:
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703的 評価結果一覧


【コンペディション】

『Mddly in Life (イカした人生)』★★★★★
『アリスの空』★★★★☆+
『優雅なインドの国々 バロック meets ストリートダンス』★★★★☆
『パリ、夜の医者』★★★★☆
『プレイリスト』★★★☆☆+
『テディ』★★★☆☆
『ハニー・シガー 甘い香り』★★☆☆☆


【コンペディション外】

『地平線の彼方』★★★★☆+
『ナディア・バタフライ』★★★☆☆


終わりに

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コロナ禍で映画祭の開催も色々様変わりしたりと 年々運営の難しさが伝わってくるが、MyFFFはコロナ以前から 世界中どこからでも観られるオンライン開催として、安定感のある映画祭だ。今年は第12回 ということなので、これからも着実に続いていくに違いない。有料のオンライン映画祭ということもあってか、残念ながら日本ではあまり熱気が感じられないが、私的にはもう少し盛り上がってほしいと思う推し映画祭である。

日本の映画祭、例えば東京フィルメックスなどでもオンライン上映があることはあるのだが、1本 1,500円…。会場の雰囲気や音響、スクリーン等も込みなら是非観たいと思うラインナップでも、オンラインで 1本 1,500円だと、ちょっと観る気になれない。*2 それに比べると、MyFFFは 短編が無料、長編 9本が 1,000円ちょっとで鑑賞できる。ベテラン監督は見かけないものの、新人監督の発掘をも含めた映画祭の醍醐味が味わえる。

Netflixのベーシックプランが 990円(2022.1.23時点)であることを考えると、高いとか登録が面倒くさいと思う人がいてもおかしくはない。だが、劇場公開されない(多分ソフト化もされない)可能性の高い作品であることを考えると、貴重な映画体験のできる作品ばかり。もちろん日本語字幕もある。俳優や監督の青田買い的な感覚も楽しめてこのお値段、お買い得ですって、奥さん!

また、監督は初めましてでも有名俳優が出演している作品もあり、私はインディペンデントを応援するのだ!などと力を入れ過ぎる必要はない。以前の東京国際映画祭(以下、TIFF)では、矢田部吉彦氏が珍しい感じの作品を発掘してくださるのが楽しみだったけど、ディレクター交代により映画祭の雰囲気が変わってしまった。*3 新しい才能との出会いは、シネコンでは難しい。色んな映画館等を駆使して作品を探し出す人もいるのかもしれないが、私の場合はそこまで趣味に時間を割けないため、その辺りは映画祭頼みとなる。

コロナ禍による変化もあり、映画祭は今年も色々と模索中だと思われる。この過渡期に安易な決めつけをすべきではないので、映画祭全般への意見はこの辺で控えることにするが、MyFFFは安定感があり、割と良作が揃っているということは、今年も実感できた。私の評価は本当に個人的な趣味嗜好によるものである。観客賞を含めた各賞の結果発表も、楽しみに待ちたい。


マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル

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*1:シュー・ユーティン『先に愛した人』2018/台湾

*2:あくまでも私の感覚です。金額にこだわることなくオンライン上映を喜んでいる人もいるようなので、需要があるなら続けた方が良いと思います。

*3:アジア作品に関しては信頼してるけど、その他の地域は…。既に他の映画祭で受賞しているような作品はTIFFで急いで観なくても配給がつくはずだし、巨匠作品も同様だと思うので、私は映画館で公開されてからでいいです。