2022年1月21日(金)~2月3日(木)、東京国際映画祭(TIFF)と国際交流基金アジアセンター(JFAC)が共催し、CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭 が開催された。
「CROSSCUT ASIA」は2014年から2019年の6年間、TIFFの一部門として アジア映画を上映。今回の「CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭 」では2部構成の特別編として復活、「CROSSCUT ASIA特別編「おいしい」アジア映画特集」部門と「CROSSCUT ASIAアンコール」部門が、無料配信上映されることに!
日本での配信がない作品を除き、上映された12作品全てを鑑賞させて頂いたので、閉幕を期に感想やら雑感やらをまとめておきたい。
- ありがとう!CROSSCUT ASIA!
- 「CROSSCUT ASIA特別編「おいしい」アジア映画特集のラインナップについて
- 「CROSSCUT ASIAアンコール」のラインナップについて
- 「ごちそうさま」後記
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ありがとう!CROSSCUT ASIA!

↑ 貴重な冊子、毎年楽しみにしていました。全部持ってます!
「CROSSCUT ASIA」が 東京オリンピック・パラリンピックの開催される2020年までの間、TIFFの一部門として取り組まれると決まった時、とても嬉しかった。ただ、終わりが決まっている分、2018年頃からもうすぐ終わっちゃうんだな、2020年もあるのかな…などと絶えず不安になり、終わった時はわかっていたことではあったけど、がっくりとうなだれた。
JFACは公的機関なので「日本を含むアジアの人々がお互いのことを知り合い、共感や共生の意識を育んでいくことを目指す」という、学校の先生みたいなねらいを挙げているが、日本にとってアジア映画とはまさしくそういった立ち位置だと、私も思う。
アジア映画は一部の映画ファンには人気があるのだが、まだまだ「一部」であり、一般的にはマイナーなイメージであることは否めない。アジア映画と聞くだけで、胸に熱いものが込み上げてくるような私のような人も多分いるはずなのだけど、同じ熱量の人と出会うことは難しい…。
Twitterには「おっ!この人はアジア全般を観てるな!」と思う人もいらっしゃるのだが、リアルでは国・地域まで細分化しないと、なかなか話ができそうな人は身近にいない。
私も専門家領域まで踏み込んでいる訳ではないけれど、アジア映画にはもっと触れていきたいし、できれば多くの人に幅広く興味・関心を持ってもらい、一緒に楽しんでいきたい。
だが、言う間でもなく私はただの映画ファンのため、基本的には”おススメ”はしていない。ブログに載せているのは紹介ではなく「感想」である。もう少し紹介とか宣伝とかに貢献するべきなのだろうかとも思ったが、本映画祭の上映作品についても基本姿勢は変えず、映画感想のみを綴ることにした。
訪問者数がゼロという日はさすがになかったが、PVが一桁という日も多く、マイナー映画を上映するTIFF&JFACの大変さにも思いを馳せた。
国際交流基金(JF)はアジア関連の機関ではないので、アジア映画だけを特集上映しなくても良いはずだが、地域を絞ってアジアセンターが企画運営しているところに深い意味があるような気がしている。
かなり記憶があやしいのだが、私が映画ファンになりはじめた2005年前後、JFは確か赤坂に拠点があり、「アラブ映画祭」なるイベントを開催していたことがある。映画に興味を持ち始めた頃で、当然アラブ系の映画なんて1本も観たことがない。どうしてそのイベントを知ったのか 全く覚えていなくて不思議なのだけど、私は吸い寄せられるように映画祭に行った。
当時は石坂健治さんがまだJFにいらして、アラブ映画を解説して下さった。30人も入ればいっぱいになってしまうような狭いスペース。小学校にあるよりずっと小さなスクリーンに映し出された古いアラブ映画の面白さに、私たち観客は声をあげて笑った。
映画祭と名乗るには、小さすぎるイベントだった気がする。だが、インターネットでは今もその開催記録を確認することができ、さすが公的機関だなぁと思う。アラブ映画祭は残念ながら短期企画として終わってしまったが、JFはその後もアジアの文化や主に東アジア映画関連の息の長い活動を続けている。
まずは近隣諸国のお互いのことを知ろう…(反応があってもなくても)。そのメッセージを届けようとする姿勢に、マイナーブログを運営する者として、深い共感を覚えた。あの映画祭の手作り感に影響を受け、映画ファンとしての今の自分があるのだと胸が熱くなる…。
ありがとう!CROSSCUT ASIA!
全作品が観られた訳ではないけれど、私はずっと注目していました。
SNSやブログに声をあげない人もいるので本当に少数派なのかどうかは不明だけど、CROSSCUT ASIAのお陰でアジア映画に興味を持った人も、きっといるはず!アジア映画の中に自分を見出し、アイデンティティーを見出し、日本という国を心の中で反芻した人も、きっといるはず!
報われても報われなくても、この復活映画祭が開催された意味はあったはず!と私は信じています。
「CROSSCUT ASIA特別編「おいしい」アジア映画特集のラインナップについて
映画祭のラインナップとして一番最初に紹介されている作品、って一般的には「この映画祭での推しかな?」と、思う。*1 だから『アルナとその好物』がトップに掲載されているのには驚いた。
ネタバレになるが、鳥インフルエンザの調査を行ううちに、汚職に気づく作品だからである。(それだけがテーマではないのだが…)公的な映画祭はプロパガンダ映画を上映すべき!と迄は思わないけれど、他にも上映作がある中で(日本初上映される目玉作品が3つもあるにも関わらず…)この作品を一番先に紹介するのは、ちょっと意味深だと思った。
今回選ばれた6作品(日本での視聴ができなかった『カンパイ!日本酒に恋した女たち』は除く)は、個人の努力や生き方の変化が大切なこともあるが、「個」というより 自分のルーツである先祖や故郷・国の大切さに思いを馳せるような作品が多かった。個人的な意見だが、不正や汚職がまかり通っていく社会への警告的な意味合いを感じる。*2
頑張って努力して”沼”から抜け出せた人、抜け出せない人…同じアジア地域に住む者として、”同じ”と”違い”について考えさせられた。
カタい文面となったが、もちろんアジアの「食」の素晴らしさは最高に伝わった!
ヨダレが止まらない〜!じゅるる…
【 ↓ 好きな作品から順番で感想を載せます ↓ 】
ワンタンミー
監督オンライントーク
youtu.be
人生は記憶の積み重ね。食はある意味、その真髄…。積み重なった記憶が自国への愛に繋がっている。(by エリック・クー監督)
女優であり監督でもある杉野さんの、クリエイター視点でのガチツッコミ質問が魅力的!
バロットの大地
愛のスープ
監督オンライントーク
youtu.be
地域の文化を伝える映画がなかったので、テーマと目標を決めてから監督の妻が脚本を書いて、少しずつ作っていった作品とのこと。タイとタイムスリム人々のベタベタしない愛の表現も見どころなのだとか。
アルナとその好物
デリシャス!
「CROSSCUT ASIAアンコール」のラインナップについて
アンコール希望があった作品が取り上げられているのだと思うが、正直、もっと人気のあった作品もあったのではないかと思う。権利の問題などの諸問題があることも思い浮かぶが、本部門の6作品にはTIFF&JFAC(選者)の「どうしても観てほしい!」という願いが込められているように感じた。
実はCROSSCUT ASIAが開催されていた6年間、私がリアルタイムで選ばなかった(観られなかった)作品ばかりである。中には、「観たかったんだよねー、これ!」的な歓喜の声を上げた作品もあったが、こういう機会でないと自分ではなかなか選ばないだろうな、と思う作品もあった。
自分では選ばないような作品こそ、TIFF&JFACはあの手この手で鑑賞機会を作るのだと思う。正直、観るのがつらい作品もあった。だが、今回無料配信上映して下さっている意義を無下にしたくはなかった。
動画配信サービスだと、躊躇することなくストップすることができる。だが、お金を払って映画館で観る映画だったら、私は最後まで観る派だ。最後まで観て、あぁ、そういうことだったのかと腑に落ちることがある。今回は、これを逃すとおそらく他での鑑賞は難しいだろうと思えたこともあり、貴重な体験をさせていただけたと思った。感謝。
【 ↓ 好きな作品から順番で感想を載せます ↓ 】
三人姉妹(2016年版)
タン・ウォン~願掛けのダンス
罠(わな)~被災地に生きる
カンボジアの失われたロックンロール
ピート・テオ特集
「ごちそうさま」後記
2017年のTIFF - 国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA #04 ネクスト! 東南アジア で、『私のヒーローたち』を観た。
上映後、石坂健治さんがトークの司会をされていたので、ご挨拶して帰ろうかなと思っていた時のことだった。(石坂さん的には私を覚えていないだろうけれど、少し前にご挨拶をさせていただく機会があったので、再びお声かけしてみたかった。さすがに今は忘れられていると思うが…)出待ち的な感じで佇んでいると、私の背後で同じく佇んでいる人がいる。
何気なく後ろを振り返ると、そこにいたのは シャリファ・アマニ! *3
私は瞬時に石坂さんを待っているのだ!と気づき、ちょっと道を譲った。映画では何度も見ているけど、華奢で本当にかわいらしい方である。彼女はオーキッドそのものの笑顔(当たり前だ…)で私を一瞬見つめ、石坂さんの服の袖口をつまんだ。
「ワタシ、キタヨ…」か、かわいい!!可愛い過ぎる!石坂さんもすぐに気づき、「お、おぉ…!」と対応されていたので、私はそっと引っ込むことにした。
卒業生の第二ボタンをねだる後輩のような、この素敵すぎる光景は(例えが昭和ですみません…)、生涯忘れられないだろう…。『私のヒーローたち』への出演はなかったものの、マレーシアの作品だし、彼女がトークに登壇しても良かったのに!と、私は心の中で絶叫つつ、この二人の信頼感の深さに胸打たれた。
映画、もしくは映画祭を通して、人間関係が深まっていく様子は本当に微笑ましい。戦争やコロナ等、突然起こる様々な問題で、海外渡航が簡単ではなくなっているが、こういう信頼関係は本当に貴重な宝だと心から思う。
長く続いていた映画祭も閉幕したり、スタッフが変わったりと、色々なことがある。その状況を第三者的に遠くから眺めていていると、何となく教員の世界と似ているなと思う時がある。若手か老人しかいない…。30-40代の中間層が育って現場を盛り上げている感じがしない。
私が映画ファンであることを自覚して、色々なことを吸収させてもらった時代は、本当に良かった。石坂さんがいて、矢田部さんがいて…。だが、彼らも人間だし、いつまでお元気でいらっしゃるか…という年齢になりつつある。今がよければそれで良い、ではない。後進は育っているのだろうか…?
石坂さんはひょうひょうとしておられるが、映画人との付き合いをとても大切にしてこられた方である。同じ熱量で行動されているスタッフが育っているのか、実は数年前から気になっている。映画業界の闇は、近年明るみに出るようになってきたが、様々なことが改善され、映画愛の深いスタッフが育っていくことを心から願う。
直接の知り合いではなくとも、映画祭は私にとって、関係者を観察できる場でもある。映画以外でも素敵なシーンをリアルで経験させていただいた「CROSSCUT ASIA」に感謝しています。
スタッフの皆さま、6年間+@、お疲れさまでした&本当にありがとうございました!
参考:
cinemarble.com