2009|監督:アスガー・ファルハディ
見覚えのあるような人間模様が、見慣れぬイランの海岸で繰り広げられるというシュール
まず、イランに海があることが驚きだ。激しい波、輝く光、仲間とはしゃぎ、子どもが笑う。そこで起きる突然の事故、失踪。…みんなの笑顔が消える。ファルハディ監督の作品が興味深いのは実はここから。
その時、人はどうするか。
実は誰も悪くはなく、間違ったことを言ってはいない。だが、立場や当事者者との関わりによって発言する内容が異なってくる。ことの重大さから「誰かのせい」にしないと収まりがつかなくなるが、誰も自分のせいにはしたくなく、そんなに自分が悪いのかと声を荒げるようになる。ファルハディ節とも言えるこの状況を、私は密かに「ファルハディの人生劇場」と呼んでいるのだが、よく考えてみると、これを面白がるのはファルハディだけではないのでは? 若い時代から読み込んで来た向田邦子の小説や、『渡オニ』で有名な橋田壽賀子ドラマでもよくある光景のような気がしてくる。私がこんなにファルハディ好きなのは、昔から馴染んでいるいざこざ劇場を、どこかで感じているからなのかもしれない。