【映画×音楽】感動はどこから

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学生時代、軽音楽部に入っていた。

私はピアノが少し弾けたので、とあるバンドに参加していた。
でも、他に3つもサークルに入っていたしバイトもやってたから毎日が忙しく、とりあえずバンドの練習には行けても個人練習をする時間がほとんどなかったし、下手っぴで怒られてばかりいた。そんな私でも、夏合宿は楽しみにしているイベントだった。


夏合宿は、仲間たちと泊まり込みで練習できる貴重な時間。
自分のバンドの練習だけでなく、他のバンドのメンバーや先輩たちともセッションできる。見たり聞いたりしてるだけでも充分楽しい。

だが、学生なんて理由をつけて飲んでることも多いので、ぐだぐだしてる人もいる。しかも、スタジオ付きの宿泊施設を利用するため、遠方で移動に時間がかかり、車に乗せてもらってるだけでも結構疲れてしまったりする。

疲れてすぐに寝てしまった私は、翌朝、早く目が覚めた。

6:00 頃だろうか。
いつもより早く目覚めていることに驚きながら顔を洗いにいくと、何やら聞こえてきた。

ドラマ『太陽にほえろ!』のテーマ曲だ!
朝っぱらから何やってんの!と 思わず笑ってしまう。

吸い寄せられるようにその部屋に行き、ちょとだけドアを開けて覗いてみた。
ギターの先輩と目が合ったので、「入っていい?」と目で聞くと、「そこ座ってな」的な返しを無言でされたので、入り口付近にあった椅子にそっと座った。

しばらくすると、物音を聞きつけた私の友人もやって来たのだが、すぐにいなくなった。
ギターの先輩は、普段演奏している曲とは全然違う曲調なのに、めっちゃ巧くて驚く。
いなくなったと思っていた友人が間もなく戻って来て、すぐにサックスで加わった。
…これだから夏合宿は最高なのだ。


自分が好きな曲を自由に演る。誰かのためとかじゃなく、自分の楽しみのために。自由に演奏できる場所と時間があって、何のしばりも気兼ねもなく、音楽だけに没頭できる時間。


例えば学祭とか、人前で演奏するのも重要だし、それはそれで楽しみではある。だが、人に見られる(聞かれる)ことを意識した演奏と、自分のための演奏はちょっと違う気がする。
どちらが素晴らしいか価値があるかではなく、感覚として。

本番が全てと言っちゃあ全てなんだけど、「練習では上手くいったのに」ということがよくある。練習では上手くできても本番で成功しなければ、意味がない。人はそのために努力するし、上手くできる人が世に出るのも当然である。

だが、私は「自分で自分を認められた瞬間」に、とてつもない価値を感じるのだった。

自己満足してない人は自信もないはずで、本番で上手くできるはずがない。まずは自分を確かめることが重要で、自分の一番のファンは自分であるべきだと思う。良い演奏ができたかできなかったか、きっと自分が一番よくわかっているはずで、自分に手応えを感じる瞬間というのは最高に素晴らしい。そして、その瞬間に立ち会えたときの感動は、震えが来るくらい最高な体験だ。


この時演奏していたギターとドラムのふたりは、後にプロとなった。
今ではちょっと話しかけることができないような大御所になっているので、私は忘れられているかもしれない。だが、夏合宿でのあの早朝セッションは、私にとっては生涯忘れられない演奏である。



大人になって本音と建前の前で困惑する時、あの早朝セッションが思い浮かぶことがある。

プロになった彼らの”至福の瞬間”には、もう二度と立ち会えないだろう。自分のために演奏する時間はあるとは思うが、社会的成功を収めた彼らにとっては、人前で演奏することの方に価値を感じるようになっているかもしれない。

素晴らしい文化・芸術は世の中に浸透していき、誰もが知るものとなる。
でも、必ずしも実力主義が認められるわけではない。
映画の世界も同じだ。

メディアで紹介される映画は有名でそれなりに優れた作品が多いけれど、必ずしも”優れている”から、だけではないことがある。色んなところでタイアップされていて、公開前から出来レースが見え見えな作品もある。


観る映画を選ぶのは難しい。1日1本観たとしても365本。1年で公開される映画よりずっと少ない本数しか観られない。全部の作品を観るのは不可能だ。なので、紹介されている作品の中からさらに何をチョイスするかが、映画ファンの質となってくる。

近年ではニュースになるような話題もTVなど大手メディアを信じない人が多くなっているが、映画も情報の取捨選択は重要だ。私はマスコミがヒットさせたい映画よりも、優れた映画が観たい派。初監督であっても、無名の俳優であっても、まずは観てみないと優れているかどうかがわからない。「おススメ映画はこれだ!」と誰かにお墨付きをもらう前でも、観る機会があるなら観たい。そして、観たということ、できれば感想を、何らかの形で製作者に伝えたい。



広告が少なく、マイナーだけど良作なのでは?!と思うような映画に出会った時、夏合宿の早朝セッションで「入ってもいい?」と目で訴えた時のことを思い出す。
あの時の先輩たちが、現在プロとして活躍していることも...

多くの監督の第一作目は、本当に作りたいもの、自分らしさの濃さが感じられる作品が多い。後にアカデミー賞に関わるような大監督に成長する前の初期の作品を知っているという、青田買い的優越感に浸れるのも、映画ファンの醍醐味だと思うのだ。


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