淵に立つ

2016|監督:深田晃司

 

ありがたい「平凡」の尊さは、崩れてみなければわからない。

工場兼自宅で自営業を営む男が、妻と子(娘)と共に平凡に暮らしている。そこへ古い知人が突如現れ、共に暮らすようになってから「平凡な幸せ」が崩れ出す…。この設定が『歓待』と同じであるところが深田監督ファンとしては非常に面白い。困惑する状況が『歓待』はブラックユーモアで笑える方向に向かうのだけど、本作では深刻な状況に変貌する。深田監督は意識しているかどうはわからないが、私はふたつの作品を反芻する度に、ちょっと村上春樹的な面白さを感じている。同じような設定で別のストーリーが展開されることに、作者の意図が感じられるのである。本当のところはどうだったのか(トラブルの種明かし)が描かれていないため、ちょっとだけモヤモヤ感もあるが、リアルな世界でも「本当のところはわからない」ことって結構ある。同じ状況下においても、立場によって見え方は異なるものだ。人間の人生はその人にしかわからず、平凡な幸せの中にも、実は孤独が潜んでいるのかもしれない。

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