2016|監督:西川美和
大切な当たり前を、突然失ったら…
突然の死。別れ。その受け止め方は、人によって違う。ガッツリ泣いて悲しむ人もいれば、何事もなかったかのように過ごしてしまう人も。私も若い頃に知人が突然亡くなったことがあるのだが、大変なショックを受けながらも何事もなかったかのように生き続けてしまい、とても後悔している。何も差し障りはないはずだった。でも、村上春樹の小説を読んで、私はもうダメなのかもと思うようになった。ダメだったことに気づいてから、心の中の傷がずっと疼いたままだ。あれから何年も経つけれど、ダメなまま、私は生きている。そして、生き続ける時間は結構永い。喪失の悲しみや再生の難しさを描いた映画は多いものの、どうも自分の経験とは重ね合わせることができず、消化不良になることが多かった。だが、この映画はガツンときた。ダメ男が子どもに「自分を大切にしてくれている人をないがしろにしてはいけない」と諭しているシーンは涙が止まらなかった。ダメな自分を知り、おずおずと向き合いながら、小さな1(いち)を足していく…残された人間にできることはそれしかないだろう。幸男は自分が思うよりずっと、妻を愛していたに違いない。
*「トーキョー女子映画部」様、完成披露試写会のご招待、ありがとうございました。*