作る人・選ぶ人・観る人
私は人に料理の腕を振るうほど料理が上手な訳ではないが、たまに誰かのために料理をすることがある。普段から料理し慣れていない私にとっては、ちょっとした手仕事だけど、楽しいひと時でもある。食べてくれる人の喜ぶ顔が見たいのだ。料理にかける時間は1時間程度だろうか。
でも、食べるのなんてあっという間だ。手間暇かけた料理ほど愛着があるし、美味しいと嬉しい。だが、食べるだけの人にとっては、作り手のかけた手間暇はどうでも良く、ただ、今食べてるものが美味しいかどうかだけが全てである。美味しいと言ってもらえると嬉しいが、食べるだけ食べて文句を言う人もいる。
文句を言うのは難しいことではない。自分の好みだけを主張していれば良く、作り手の気持ちを考えなければ不満や嫌味もどんどん出る。普段から美味しいものを食べていれば、それと比べるだろうし、過去に食べたものと比べる人もいるかもしれない。
だけど、私が作った料理は「ごはんの時間だから作った」だけで、美食家を唸らせるためのものではないし、生きるため…みたいな深刻な理由があってのことではない。お腹が空いたから食べるだけなのだ。
ちょっとおかずがあって、あと、お新香か美味しい梅干しでもあれば私的には満足。
「もっとマシなの作れよ」とか言うんなら…自分で作れば?、と思う。
映画を観ながら思うことと、ちょっと似ている。
☆…
私には映画は作れない。
だから作る人たちをとても尊敬している。
作り手のことを考えるといい加減な評価なんてできない、という気持ちになる。
☆…
映画は、観た直後と時間が経過した後では感想が違うことがよくある。
数年後に振り返ったり、突然思い出してもう一度観たくなることもある。リアルタイムでは高評価でなくとも、いつかお袋の味的存在になる可能性もないとは言えない。
また、賞取りレースを目指していない作品に、味を感じるファンもいる。
有名店のシェフよりも、栗原はるみさんのような家庭料理に価値を感じる人もいる、ということ。
それから、私には残念ながら、食わず嫌いも多い。
…いつもは自分の好きなのばっかり観てるから、映画祭に行くと苦手ジャンルが多いことに改めて気づかされる。アニメ、ホラーは最初から視界にも入れない。
映画祭の映画を選定する人にも当然好みはあるだろう。でも、どのジャンルも好き嫌いなく観て選定するんだろうな。もうこの時点でスゴい。映画祭の映画を選んで下さる方々も、本当に尊敬する。
☆…
そんなことを考えていたら、なんと矢田部吉彦さんとすれ違った!
東京国際映画祭には10年くらい足を運んでいるが、初めてのことである。東京フィルメックスは会場がひとつということもあって、林さんがロビーにいらっしゃったり市山さんがよく客席をウロウロしているので、すごく近く感じるのだが、矢田部さんはいつもティーチインの司会とかで舞台にいらっしゃって雲の上の人のようだったのだ。感動した。お忙しいだろうけれど、お元気そうでした。
☆…
作る人と選んでくれる人と食べる人。…おっと、映画祭の場合は「観る人」。
お腹が空いたら食欲が湧くように、今は映画が観たくてたまらない。
作ってくれた人も、選んでくれた人も、ありがとう。
実りの秋を満喫しています。