夏を行く人々

2014|監督:アリーチェ・ロルヴァケル|イタリア、スイス、ドイツ

蜂蜜作りで生計を立てている一家のひと夏。

味わいのある箇所はたくさんあるのだが、特に私の胸に刺さったのはラクダ登場後のあたり。長女として妹たちを束ねたり、過度な仕事を押し付けられたり、TV番組への応募も頑なに反対する父親には相当な反感を持っていたであろうジェルソミーナが、ラクダと格闘している父に何度も呼びかけ、手伝おうか?というシーン。…父親が断固拒否しているところだ。彼女は父が思うよりずっと成長しているし、父は彼女が思うよりずっと娘を愛していた。毎日顔を合わせていても心の距離があったことに、お互いに気づいた瞬間だったように思う。彼女は今はラクダを欲しがっていない。でも無邪気に喜ぶ妹たちのように、ジェルソミーナもラクダを欲しがっていた頃があったはず。父はきっと長い間それを覚えていて、彼女を喜ばそうとラクダを手に入れる方法をあれこれ探していたに違いない。けれどもいつの間にか娘は成長していた…。
ラストの「戻る場所はある」という父のセリフも心にしみる。

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