バント(飛べ!ホ・ドング)

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年末のNHKで、
シンガーソングライター・馬場俊英さんの
ドキュメント番組を見た。
母と二人、思わず見入ってしまった。

彼自身の立場もだが、
彼の音楽を支持する
3,40代の切羽詰った心境が
生々しく描かれている番組だったからである。


私も色んな意味で切羽詰まっている。
だけど、
苦しいのは自分だけじゃないんだな、と
改めて感じた。

誰かと一緒にいても 
孤独がぬぐえないことも。


このギリギリの人たちが
馬場さんの音楽によって勇気をもらい、
立ち上がっていく。


ライヴに行けた喜びで、
ピカピカに笑顔が輝く人々。

これが離婚したての人だとは、
うつ病で仕事に行けない人だとは思えない、
というほどに
音楽のチカラってホント偉大。

馬場さん自身も 
そんなファンの姿を見て驚くと言う、
素敵な連鎖が起こっている。


馬場さんいわく、 
「大切なことは 誰も教えてくれない。」


どんなに苦しい状況でも 
自分から何かを感じ取り、
自分で決定をくだし、
立ち上がる意思を持たなくては
何も変わらない。

「ガンバレ」は言うのも言われるのも簡単で、 
右から左へと安易に受け流されていく言葉。

時に「安っぽいなぁ」と思うこともあるけど、
それでも言わずにはいられない言葉。

そういえば、先日届いた
死ぬほど忙しい友人からの
久々のメールにもあった。
「ガンバレ、あたし。」


もう無理――。

この作品はこれから先、
どうやって生きていけばいいのか…という
中年男性の苦難に
どっぷりと感情移入して観た。


男手ひとつで
子どもを育てなければならないというのに、
家(兼店)の立ち退きを迫られている。

しかも、子どもは障がい児学級へ行くよう
学校側から突き放されている。

男は友人の奥さんが勤めている会社の保険に
入っているのだが、癌患者には多額の保険金が
支払われるという話を、ある日偶然耳にする。
そして思うのだ。

癌になりたい、と。

人生の苦難に立たされているとき、
人はそのとき出会った作品に
自分の姿を重ねて 
自分の姿を見つめるのだろう。


ある人は、馬場俊英さんの音楽に。
私は韓国映画に。


「癌になりたい」と
切実に願う男の苦悩をみながら 
ぼんやりと考える。


神さまって本当にいるのかなぁ。


韓国映画にはどうしてこう 
切実で痛々しい設定が多いのだろう。

そして、こういった韓国作品色に
いつも揺さぶり続けられているのは
どうしてなのか。


そこまで彼を追い詰めた現実と 
どんなに祈ってもきかれなかった祈りには
凍えそうになる。


ただ、この作品の中では 
一回だけ奇跡が起こる。

偶然野球をすることになり、
試合に出ることになった息子が 
バントに成功するのだ。

この子の状況も父親の状況も
「ガンバレ」なんて安っぽい言葉では
どうにもならない厳しさである。

だから、この奇跡のバントは 
硬く凍てついていた私の心を温めてくれた。


「大切なことほど 誰も教えてくれない」


お正月特番で「私の占いは99%あたる」と
胸を張っていた占い師を見て、
私は思った。

でも、1%は違うのですね、と。
私は1%の可能性を夢見て生きている、と。
例え1%の可能性であっても、
やってみなくては何も始まらない。

人生は何度でもやり直せる。
…そう思いたいが、現実は
映画のようにはいかないことがほとんどだ。
でも、
愛する家族、支えたい誰かのために
頑張れるならば、まだまだ終わりじゃない。


安っぽいと思っていた「ガンバレ」を
知らず知らずのうちに自分に向けていた。

「ガンバレ、あたし」

つらいのは 自分だけじゃない、きっと。


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