アドリブ・ナイト

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静かな映画だった。


監督が特に丁寧に描きたかったのは 
やはり靴下のシーンだと思う。

黄色い水玉の靴下。

親が娘に買ってきたものである。
家出娘がいつ戻ってきてもいいように、
きちんと洋服を買って準備していたものだ。


それにしても、
親が選ぶ服はどうしてダサいんだろう。
万が一
家出娘が家に戻ることがあったとしても、
もう黄色い水玉なんかが似合う齢ではない。

しかも、勝手な想像だけど、
高校生で家出した娘が全うな仕事に就き、
全うに暮らしているとは思えない。

おそらく『嫌われ松子の一生』みたいに 
夜の女になってしまったのでは…。

露出度の高い服にケバい化粧…
そんな彼女に黄色い水玉は似合わない。


だからこそ、
このシーンにはぐっときてしまったのだ。


父親にとっては最後に見た高校生の娘のまま、
彼女の記憶が残っているのだろう。
かわいいかわいい自分の娘。

結局娘に逢えないまま、
この父親は静かに死を迎える。


他人の親だからこそ、
こんな風に親の愛をじ〜んと感じるのだが、
自分の親がけったいな柄の服を買ってきたら 
激怒しかねない。

ハン・ヒョンジュもきっと 
他人の親だからこそ、
この靴下を履いてあげたのではないだろうか。
そして、彼女の場合は 
こんな風に親に愛されたかったなと
思ったのではないだろうか。


余分なセリフがなく、
常に死への緊張感が漂う映画である。
また、ほとんど音楽が挿入されておらず、
静かな映画だったのも印象的である。
それが更にリアルティを高め、
効果的だと思った。


私自身も以前、
田舎の葬儀に行った時のことを思い出し、
しばらく余韻に浸った。