マイファーザー

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「僕の気持ちがわかる?!」

ダニエル・へニーはこの作品の中で2度も訴えている。
わかってたまるか。
わかるはずがない。


他者に想像ができる限界をはるかに越えた現実…
恐ろしい孤独感、
彼の苦しみを思うと胸が張り裂けそうだった。

一方で、わかるはずのないこの苦しみだけど 
どこかでわかってもらいたいという、
搾り出すような魂の叫びも感じられる。


両親を探し出したいーーー。
もうその時点で
かなり苦境に立たされていると思うが、
アメリカから韓国にやってきた時、
彼は希望に満ち溢れていたのではないだろうか。

努力の甲斐あって
自分を捨てた父親が見つかるが、なんと死刑囚。

面談室でしか会えないが、
それでも再会を喜びにしている。

彼は温かい養父母に育てられ、
つらい運命をも受け入れることができる、
りっぱな大人に成長していた。


父親の為に死刑制度廃止活動や延命活動なども行う。
遺族への謝罪、父親への励まし…
完璧にいい人そのもの。
優しさと思いやりに満ちた、正義の人だ。

その「いい人」が荒れ狂う時。


あまりにも残酷な運命が彼を待ち受けていた時、
彼は絶叫する。

俺が何をしたっていうんだ?!


見返りを求めず、父を勇気づけてきたのに。
アメリカでの差別にも耐えてきたのに。


神も仏もあるものか。
どうせ俺は殺人鬼の息子だよ。
あの男と同じ血が流れていて欲しいと
膝まづいて祈ったよ。


きかれることのなかった祈りーーー
救われなかったと知った瞬間。


人生はここからが本番のような気が私はしている。


正しく生きてきた、いい人ほど絶望が大きい。
その絶望から立ち直れるのか。
どうやって立ち直るのか。

立ち直れない人、答えを出せず 
もがき苦しむ人もいるだろう。
死を選ぶ人も。


だが、彼の場合は…
血のつながらない男を自分の父親として認めたのだ。
短い時間の中で
ここまで自分の気持ちを整理できるのは
尋常なことではないと思った。


でも、映画だから。そういう脚本だから。
私は涙を流す一方で、
そんな風に納得して本編の鑑賞を終えた。


ところが、
なんと全てが実話だったのである!


エンドロールに実際の記録(映像)が流れてきた時、
驚愕した。
この世にこんな人がいるなんて。
これでもかと畳み掛けるように起こる困難が
事実だったなんて。

受け入れたといっても父親は死刑囚な訳で、
いつかは処せられる。
彼はその苦しみをも、
背負っていかねばならないはずで…。


事実は小説より奇なりーーー。


この映画を観終ってしばらくは呆然とした。
言葉にしてしまうとあまりにも陳腐だが、
おそらく、2007年最大の感動作である。