アイスケーキ

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去年の年末の話だが、
久々の家族団欒で鍋を囲んでいたひとときのことである。


少しお酒の入った父が
「この前、バスの中で席譲られちゃったんだよね…」と
嬉しそうに話し始めた。

人さまに父を大切にして頂いた嬉しさと、
逆に
70過ぎまで誰にも席を譲ってもらえなかったのかと
ちょっと憤慨するような気持ちで話に耳を傾けていると
「あの青年はきっと温かい家庭に育ったんだろうなぁ」
…と、しきりに父は繰り返した。

温かい家庭に育たなければ、
人は優しさを知ることはないだろうと。
身をもって優しさを知ることなしに 
他人に優しくなんてできないだろうと。


…その話を聞いて、
父がどれだけその青年の気持ちが嬉しかったのかが
伝わってきた。
(結局席を譲ってもらうのは遠慮したそうなのだが…)

道徳的なことはいくらでも口先で言える。
どんなことを言えば大人に誉めてもらえるのか
知っている子どももたくさんいる。


でも、実際に「行動」に移すのは
当然なことではないのだと改めて思った。
お年寄りに席を譲る…
たったそれだけのことであっても。


主役ではなかったのだが、
映画の中で施設育ちの子どもが
アイスキャンディを売って貯めていた全財産を
友達に渡すところがたまらなかった。
友だちの
「お父さんに会いたい」という願いが叶うようにと、
渡してあげたのだ。


彼には両親がおらず、会いたくても会えないのに。
事故に遭い、片足を失ったのに。
それだけのお金を貯めるのは簡単ではなかったのに。
親の愛も知らず、大人から殴られて育ったのに。
実際に「行動」に移すのは 相当大変なことだ。


施設育ちで片足がないから
みんなにバカにされると泣いていた彼が…と思うと
(しかも誰にも誉められるわけでもない)
とにかく号泣してしまった。

その状況で、友だちの幸せを願うことができるのは
ほんとにすごい。


子どもの幸せを願う時、
何が一番のしあわせかと考えると、
やはり両親と一緒にいられることだろう。

大人には色々な事情があって、
その事情に子どもを巻き込むことも多い。
中には自分のことに精一杯で子どもを捨てる親もいたりする。

しかし、人間の本能なんだろうか。
自分のルーツを知りたいという思い。
肉親に会いたいという思い。
どの国であっても 同じなのではないだろうか。


父さんと手をつないで町を歩く。
「ねぇ、お父さん。
アイスケーキ一本買ってちょうだい。」
お父さんに甘えて、アイスを食べながら町を歩く。
こんな平凡なことが果てしない少年の夢だったなんて…。


それが実現するまでの
ものすごく長い道のりを描いた映画で切なかったが、
このラストにはものすごく満足であった。

それにしても、
パク・チビンくんはなんて可愛いのだろう。
(子役の演技に関しては好き嫌いが分かれるとは思われるが…)


『奇跡の夏』でも号泣したが、また やられてしまった。

〈第20回TIFF コリアンシネマウィーク上映作品〉